驚異のアベハゼ

先日病気になってしまったクチボソたちとは別の水槽で、

アベハゼという小さなハゼを飼っている。

 

こちらは隅田川で捕ってきた。

 

↓こんな感じのところに住んでいるお魚さんです。

 

クチボソたちと違い、アベハゼはものすごく強い。

エアレーションもなしで、水換えもしていない。

ヒーターもつけてない。

餌もほとんどあげていない。

 

前にイソメをあげたら、初回はすごく食いつきがよかったのだが、

次からはあまり食べなくなってしまった。

 

Wikipediaによると、アベハゼは有機堆積物(バクテリアなど)を主食にしている。

 

だからかなのか、わからないけど、

イソメも死後しばらく経って腐敗してきた頃に、

食べているようだ。熟成感があってうまい、のかどうなのか。

 

アベハゼは嫌気的な堆積物に覆われた泥底で

生きている。嫌気的とは、酸素がない状態ってことです。

 

泥っていえば、田んぼなんかも泥で、

ドジョウとかうなぎとかも住んでるから

どこか牧歌的なイメージがあるかもしれないけど、

この東京都中央区のアベハゼさんは泥というよりヘドロに住んでいる。

 

モノ凄い体に悪そうな異臭を放つ泥の中に住んでいる。

 

こんなところに住める魚はそういない。

 

実際、このアベハゼが取れるヘドロ溜まりでは、

アベハゼの他には、カニをたまに見かけるだけ。

他の魚は住めないと思う。

 

このヘドロ溜まりは、潮の満ち引きの影響で

1日のうちの何時間か完全に干潟になっている。

 

その時は、アベハゼの皆さんは泥を身体にまとってじいっとしている。

水や酸素がなくてもしばらく生きていけるアベハゼだから出来ることだ。

 

多くの魚は体内の窒素老廃物をアンモニアのままで排泄するが、

アベハゼはアンモニアを尿素に変える能力がある。

 

一般的に、魚の体内から排出されたアンモニアは、

すぐに水で希釈されるので

水中に住む魚の多くは、尿素に変換する必要がない。

 

しかし、アンモニア濃度が高い水質が汚染された環境だと、

普通の魚は生きていけない。

 

アベハゼさんが水質の悪い環境でも生息できるのは、

この尿素回路の働きによるものだと考えられる。

 

アベハゼは日本全国各地の汽水域に生息している。

キレイな水がないと生存出来ない魚と違って、

どんなところでも住めるアベハゼは

環境破壊が進む現代においても、勢力を拡大することができる。

アベハゼの生存戦略は成功しているのだ。

 

アベハゼ、すごーい!

 

そして、この魚たちは、驚異的に大人しい。

じぃーっと身を寄せ合って、小さい子をいじめるでもなく、

追いかけっこするでもない。

 

私は生き物についつい自分自身を投影してしまうのだが、

アベハゼを見ていると、この魚は東京砂漠に住む

我々みたいなものだろうか、と考えてしまう。

 

美しい風景も、美味しい食べ物も、

生き生きとした感情の交流も、

二の次にして、ただ生活する為だけに生きている、というか。

 

まあ、そこまで卑下して考えることもないのだが。

 

人間と比べて、システムに順応する為に、新しい身体能力を獲得した

アベハゼはよっぽど逞しい。

しかし如何せん、観賞してても、面白くない。

 

クチボソやタナゴは、狭い水槽に入れたら病気になってしまった。

こんなところには、居たくないのじゃー!と主張しておるのだろう。

そこで、すみません、と謝りつつ、なんとか快適な環境に

してあげられないかと思案する。

 

なんとなく生き物とのコミュニケーションが成立したような気になる。

 

アベハゼさんたちとは、そういうコミュニケーションすら成り立たないのだよねえ。

とかなんとか思っていた。

 

しかし先だって、クチボソたちの水槽を塩水にしたついでに

アベハゼ水槽も塩水にしたら活発に泳ぎ始めた。

 

アベハゼは完全に汽水の魚だから、

塩水の方がやっぱ居心地が良いのだろう。

(淡水でもいけちゃうところがアベハゼらしいのだよ・・・)

 

すまん、アベハゼ。

 

君たちがまるで無神経で、頑丈で、無感動なんだろうって、

私が思い込んでいたのだよ。

物言わぬアベハゼの、聞こえない声を聞く能力が私になかったってことだ。

 

 

この記事を書いた人

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リョウコ

1974年生まれ。子供が2人と旦那が1人で、栃木県在住。
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